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『名前の由来』             里母IU

 

特別養子縁組で親子になった息子の名前は、実母さんが付けたものだ。

所定の手続きを踏めば、改名することも可能らしいが、生後9ヶ月間彼がその名前で呼ばれていた実績を重んじたのと、身ひとつで我が家に来た彼にとって、名前は、実母さんからの貴重なプレゼントのような気がして、改名しないことにした。

自分たちの思いを込めた名前を付けたい気持ちもあったが、何より私たちは、その名前をとても気に入っていたのだ。

 

ただ、彼に名前の由来を教えてあげられないことが、私の心に引っかかっていた。

 

子供頃、母は私の名付けの経緯をよく語ってくれた。

「あなたの名前の響きはお父さんが決めたの。お母さんは、別の名前が良かったのよ。漢字はおじいちゃんが提案したけど、その字は画数が悪いから別の字にしたほうがいいって隣の家のおじさんが、今の字を付けてくれたの。それでおばあちゃんもお母さんもその字が気に入って、この名前になったのよ。」

私はこの話を聞くたびに、子供の誕生を喜びながら、隣のおじさんも巻き込んで、家族が侃々諤々話し合っている様子が目に浮かび、なんだか面白く、温かい気持ちになったものだ。

 

話は変わるが、特別養子縁組の場合、養親が家庭裁判所に申し立てを行い、半年間の試験養育期間を経た後、裁判所の許可があって初めて、法的に親子と認められる。

申し立て後には、家裁の調査官による養親・実親それぞれとの面談、子供の養育状況をみるための家庭訪問等がある。

 

それは、我が家を調査官が訪問し、私たち夫婦と話しながら、遊んでいる子供を見まもっている時のことだった。

「今後実母さんに会いますが、先方に何か聞いておきたいことはありますか?聞ける範囲のことでしたら、僕が聞いてみます。」

とおっしゃってくれたのだ。私は迷わず名前の由来を聞いてほしいと伝えた。

 

それから数ヶ月後、裁判所から特別養子縁組を認める審判書が届いた。そして間もなく調査官から電話がかかってきた。

息子の名前は、実母さんが自分の名前の一字を入れて付けたこと、優しく可愛げのある子に育ってほしい、そして優しいお父さんとお母さんに出会ってほしいとの願いを込めて付けたことを話してくれた。

礼を言い、受話器を置いた後、涙があふれた。

 

それまで、実母さんを含めた家族全員が、子供の誕生を肯定できなかったと聞いていた。多分それは事実だろう。

だが、その状況のなかでも、自分の名前の一文字を入れ、子供の幸せを願って名付けてくれていたことが、本当に嬉しかった。

私たち夫婦にとって、かわいい我が子の誕生が、祝福されるものでなかったことは、たまらなく不憫だ。でも名前の由来を聞けたおかげで、初めてそこに込められた実母さんの愛を感じることができた。

 

息子はこの春、小学一年生になった。

真実告知もごく自然に進めているので、彼に名前の由来を話す日は、もう間もなくやってくるだろう。その時に、愛ある幸せなエピソードとして語ってあげたい。

そして何より、私たち夫婦が、彼の名前を大好きなことも伝えたいと思う。