『宝物』     里母MN

 

「かあちゃんの笑った顔が好きだよ!」

何気ない会話の中に6歳のSちゃんは、時々私にそう言いました。

子どもの気持ちとしては、素直にそう思う反面、怒った顔ではなく笑った顔の私ともっと向かい合いたいと言うメッセージが込められていたのでしょう。

Sちゃんは、体も声も大きく行動もたくましくて、パワフルでした。

外遊びは木登りが大得意で、保育園や公園ではどんなに太くて高い樹でも見つけるとじっとしていられず、いつの間にかてっぺんまで登っていました。

鬼ごっこや縄跳びなど走り回るのが大好きで、おろしたてのズボンの膝はその日に穴をつくって帰ってきていました。

私に甘えたい時になかなか甘えられず、わがまま言って怒られる事の方が多くて、そのストレスがSちゃんのパワーをさらに大きくしていたのでしょう。そんな時、私の心に突き刺さったSちゃんの言葉

「かあちゃんじゃなくて、○○さんの方がよかった!

               だって、○○さんはやさしいもん!」

いつものように、片付けられないSちゃんを怒った後に言われた言葉でした。

母親(里親)失格の烙印を子どもから押された気分でした。

赤ちゃんのTちゃんが家にやってきて間もない頃で、Sちゃんも半年の生活でやっと環境に慣れた時の事でした。

後になり冷静に思うと完全に私を試す為の言葉だったのです。

その後Sちゃんと別れする事になり、約半年が過ぎました。

そして、今になってSちゃんが残してくれた言葉の宝物が、沢山ある事に気付きました。

中でも一番は、「かあちゃん、いつもおいしいごはん作ってくれてありがとう。」です。

二年の間に何十回、何百回聞いた事でしょう。

いつも美味しいそうにモリモリ食べて、ご飯一粒の中にも神様がいる、とお茶碗にくっついているご飯粒はお茶を流して最後まで食べていた事を思い出します。

最近、ご飯作りに前ほど気合が入りません。

Sちゃんの言葉の魔法の威力は大きかったと思います。

里親になって三年。

子ども達との生活は、一日一日が難しくもあり癒しでもあります。

少し時が経って思えるのですが、私よりも子ども達の方が強さやたくましさ、そして優しさを持ち合わせている事に気付かされます。

その子ども達が、私との間に安心・信頼の絆を作ろうと一生懸命です。

それに私らしく応えられるようこれからも、子ども達の言葉に耳を傾け、心を傾けていこうと思います。

最後に、Sちゃんからのメッセージで締めくくりにしたいと思います。

卒園間近のSちゃんが、保育園で一針一針縫った手作りのふきんと一緒にお手紙です。

これも私の宝物です。

「かあちゃんへ、

いつもいそがしいのに、おいしいごはんつくってくれてありがとう。

                      だいすきだよ♡Sより」